お弁当
亮は相変わらず美味しそうにお弁当を食べている。
⸻
唐揚げ。
⸻
卵焼き。
⸻
おにぎり。
⸻
順調に減っていく。
⸻
香葉はその様子を眺めながら麦茶を飲んだ。
⸻
その時。
⸻
亮の手が止まる。
⸻
「浜中は食べないの……?」
⸻
少し心配そうな顔。
⸻
香葉は肩をすくめた。
⸻
「今はちょっといい……。」
⸻
本当はお腹が空いていない訳じゃない。
⸻
ただ。
⸻
今日は何となく食欲がない。
⸻
亮は数秒香葉を見る。
⸻
そして。
⸻
「そっか。」
⸻
それ以上は言わなかった。
⸻
無理に食べろとも言わない。
⸻
ただ。
⸻
少しだけ気になる顔をしていた。
⸻
そして再びお弁当に集中する。
⸻
「うま。」
⸻
「良かったね。」
⸻
「うん。」
⸻
「小学生みたい。」
⸻
「褒めてる?」
⸻
「全然。」
⸻
亮は笑う。
⸻
そしておにぎりを頬張る。
⸻
数秒後。
⸻
ふと顔を上げた。
⸻
「そういえば。」
⸻
「何。」
⸻
「浜中の部屋ってどんな感じ?」
⸻
香葉は麦茶を吹きそうになる。
⸻
「は?」
⸻
「いや。」
⸻
亮は真面目な顔で続ける。
⸻
「なんか無機質な感じがする。」
⸻
「何それ。」
⸻
「机とベッドがあるだけみたいな。」
⸻
香葉は即答した。
⸻
「失礼な」
⸻
「違う?」
⸻
「違う。」
⸻
「じゃあ本棚ある。」
⸻
「ある。」
⸻
「机。」
⸻
「ある。」
⸻
「ベッド。」
⸻
「ある。」
⸻
「ほら。」
⸻
「ほらじゃない。」
⸻
香葉はクッションを投げた。
⸻
亮は笑いながら受け止める。
⸻
「何そのイメージ。」
⸻
「何となく。」
⸻
「何となくで人の部屋決めるな。」
⸻
「だって浜中だし。」
⸻
「意味分かんない。」
⸻
亮は少し考える。
⸻
そして。
⸻
「でも意外とぬいぐるみいっぱいあるかも。」
⸻
「ない。」
⸻
「観葉植物。」
⸻
「ない。」
⸻
「ギター。」
⸻
「ない。」
⸻
「じゃあ何あるの。」
⸻
香葉は少し黙った。
⸻
「……。」
⸻
亮が首を傾げる。
⸻
「何。」
⸻
香葉はため息をついた。
⸻
「見れば分かる。」
⸻
亮が固まる。
⸻
「え。」
⸻
「え?」
⸻
「見せてくれるの?」
⸻
「見たがったの古畑でしょ。」
⸻
「確かに。」
⸻
亮は素直に頷いた。
⸻
香葉は立ち上がる。
⸻
「変なこと言ったら追い出す。」
⸻
「言わない。」
⸻
「絶対言う。」
⸻
「多分言う。」
⸻
「ほら。」
⸻
亮は笑いながら立ち上がった。
⸻
そして二人は階段へ向かう。
⸻
亮はまだ知らない。
⸻
浜中の部屋が、
自分の想像とは全く違うことを。
⸻
そして。
⸻
部屋の隅に置かれた大きなボストンバッグが、
後になってずっと心に残ることになるのを。




