下車
電車が駅へ滑り込む。
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アナウンスが流れる。
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香葉は立ち上がった。
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「じゃ。」
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誰に言うでもなく呟く。
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ドアが開く。
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ホームへ降りる。
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そして数歩歩いたところで気付いた。
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後ろから足音が付いてくる。
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嫌な予感。
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振り返る。
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やっぱりいた。
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古畑亮。
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「何してるの。」
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「歩いてる。」
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「知ってる。」
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「じゃあ聞くな。」
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香葉はため息をつく。
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「何で降りたの。」
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亮は当然のように答えた。
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「送る。」
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「は?」
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「送る。」
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二回言った。
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意味が分からない。
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「古畑の駅じゃないでしょ。」
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「違う。」
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「じゃあ帰って。」
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「嫌。」
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即答だった。
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「何で。」
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亮は少しだけ眉をひそめる。
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そして。
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「さっき車内でフラッとしてたから。」
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香葉の足が止まった。
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「……。」
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「送ってく。」
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香葉は思わず視線を逸らした。
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気付いてたんだ。
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あの一瞬。
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誰にも分からないと思っていた。
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吊り革を握った時。
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視界が揺れた時。
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ほんの一瞬だったのに。
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「気のせいだし。」
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小さく言う。
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「気のせいじゃなかった。」
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「大丈夫だから。」
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「それ昨日から十回くらい聞いてる。」
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「数えてるの?」
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「なんとなく。」
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香葉は呆れる。
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本当に面倒臭い。
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なのに。
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嫌ではない。
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それがまた面倒だった。
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「過保護。」
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「違う。」
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「暇人。」
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「結構忙しい。」
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「帰れ。」
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「断る。」
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亮は全く引かない。
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駅前の横断歩道を渡る。
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住宅街へ入る。
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しばらく歩く。
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気付けば香葉も追い返すのをやめていた。
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どうせ帰らない。
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分かっている。
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「古畑。」
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「ん?」
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「しつこい。」
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「よく言われる。」
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「直した方がいい。」
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「検討しとく。」
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全然直す気のない返事。
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香葉は小さく笑った。
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夕方の風が吹く。
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そして二人は、
並んで浜中家へ向かって歩いていく。
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香葉はまだ知らない。
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この日、
古畑亮が初めて自分の部屋へ入ることになるなんて。




