下校
学校を出る。
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六月の日差しは強かった。
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午前中だけだったのに、
妙に疲れた気がする。
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駅へ向かう。
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人の流れに混ざりながら歩く。
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その時。
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スマホが震えた。
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母だった。
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香葉は開く。
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母
今どこ?
学校終わった?
このまま病院行かない?
先生に診てもらわない?
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「……。」
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香葉は画面を見つめる。
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四連続。
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しかも数分以内。
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「、、、、、、」
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思わず苦笑いが漏れる。
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「四つ……」
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完全に心配している。
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昨日から何度目だろう。
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香葉は立ち止まる。
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返信画面を開く。
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香葉
学校終わったよ。
駅。
大丈夫だから
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送信。
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数秒後。
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既読。
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早い。
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絶対仕事中なのに。
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「仕事して……。」
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思わず呟く。
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その時だった。
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「浜中。」
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聞き慣れた声。
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香葉は肩を落とした。
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「……。」
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振り返らなくても分かる。
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「またいた。」
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後ろには古畑亮。
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「ひど。」
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「何でいるの。」
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「駅だから。」
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「知らない。」
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亮は笑う。
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香葉も少し笑う。
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最近。
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このやり取りが増えた。
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駅。
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ホーム。
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改札。
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気付くといる。
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「何笑ってた?」
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亮が聞く。
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「別に。」
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「絶対別にじゃない。」
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「お母さん。」
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つい答えてしまう。
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亮が少し意外そうな顔をした。
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「お母さん?」
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香葉はスマホを見せる。
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もちろん画面は見せない。
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通知だけ。
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「病院行かない?」
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「先生に診てもらわない?」
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「今どこ?」
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「学校終わった?」
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亮は数秒黙る。
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そして。
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吹き出した。
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「めちゃくちゃ心配されてるじゃん。」
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「でしょ。」
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「愛されてんな。」
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香葉は少しだけ目を細めた。
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そうなのだ。
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分かっている。
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母が心配していることも。
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自分のためだということも。
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でも。
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心配されればされるほど、
逆に大丈夫だと言いたくなる。
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「病院行かないの?」
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亮が聞く。
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「行かない。」
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即答。
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「強い。」
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「普通。」
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「いや強い。」
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香葉は肩をすくめる。
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その時。
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ホームへ電車が入ってきた。
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風が吹く。
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車両の窓に映る自分の顔。
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少し疲れて見えた。
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ほんの少しだけ。
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香葉は視線を逸らした。
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気付かなかったことにする。
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まだ。
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大丈夫だから。
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そう思いながら、
香葉は電車へ乗り込んだ。
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その隣には、
当たり前のように古畑亮がいた。




