自室
自室。
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机の上には昔のデザイン画。
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香葉は椅子に座ったまま眺めていた。
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ワンピース。
ジャケット。
コート。
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どれも描いていた当時の自分は真剣だった。
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「懐かしいなぁ。」
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一枚一枚めくる。
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そして。
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ふと。
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「スカート作ろうかなぁ。」
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誰に言うでもなく呟く。
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理由はない。
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なんとなく。
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本当にそれだけだった。
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香葉はスケッチブックを引き寄せる。
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シャーペンを持つ。
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白い紙。
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少し考える。
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そして描き始めた。
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フレアスカート。
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シンプルな形。
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でも。
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少し物足りない。
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「うーん。」
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シャーペンの先で紙をつつく。
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その時。
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ふと思いつく。
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レース。
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裾に重ねる。
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軽く揺れる感じ。
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風が吹いたらふわっと広がる感じ。
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香葉の手が動く。
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線が増える。
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レース模様。
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重なり方。
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丈感。
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気付けば夢中になっていた。
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「可愛いかも」
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思わず声が出る。
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誰もいない部屋。
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だから遠慮しない。
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香葉は笑った。
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久しぶりだった。
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何かを考えていて、
時間を忘れる感覚。
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不安も。
検査も。
病院も。
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全部どこかへ行っていた。
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机の横にある籠へ視線を向ける。
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毛糸。
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レース糸。
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編み針。
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香葉は立ち上がった。
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「よし。」
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デザインだけじゃない。
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作れる。
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ちゃんと。
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レースだって編める。
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ミシンだって使える。
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小さい頃から好きだった。
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服を作ること。
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形にすること。
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香葉は編み針を手に取った。
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糸を通す。
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一目。
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また一目。
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ゆっくり。
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丁寧に。
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レースが少しずつ伸びていく。
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カチ。
カチ。
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規則正しい音。
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心地良い。
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時計を見る。
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いつの間にか一時間近く経っていた。
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「え。」
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思わず笑う。
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あっという間だった。
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昼間まで感じていた身体の重さも、
少しだけ薄れている気がした。
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好きなことをしている時って、
こんな感じだったっけ。
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その時。
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スマホが震えた。
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机の上。
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画面が光る。
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通知。
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古畑亮
『浜中』
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「何。」
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香葉は思わず笑った。
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名前だけ。
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用件なし。
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相変わらずである。
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香葉は編み針を置き、
返信画面を開いた。
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六月の夕暮れ。
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窓の外では、
少しずつ空が藍色へ変わり始めていた。




