122/244
面会
母はスケッチブックを閉じると、ふと思い出したように言った。
「あっ、そうだった。」
「今日、北原先生から連絡があったの。」
「先生?」
香葉は少し首を傾げる。
「明日の面会時間に、お見舞いに来るって。」
「えっ……。」
思わず目を丸くする。
「忙しいのに……。」
「ちょうど学校も夏休みだから時間が取れたみたい。」
母は穏やかに微笑む。
「退院のお話もしたわよ。一度顔を見に来たいって。」
香葉は少し照れくさそうに笑った。
「先生らしいなぁ……。」
クラスでは少しおちゃらけることもある北原先生。
でも、生徒一人ひとりのことは誰よりも気に掛けてくれる。
そんな先生だからこそ、わざわざ病院まで来てくれるのだろう。
「古畑君も来るのかしら?」
母が何気なく尋ねる。
香葉は一瞬だけ考えて、小さく首を振った。
「……分かんない。」
そう答えたものの、心のどこかで少しだけ期待している自分がいた。
もし来たら、何て言おう。
“退院決まったよ。”
その一言を、一番に伝えたい相手が頭に浮かぶ。
香葉はその気持ちを胸の奥にしまい、窓の外へ視線を向けた。
明日は、少し賑やかな一日になりそうだった。




