病室
夕方。
コンコン、と病室のドアがノックされる。
「入るわよ。」
顔を覗かせたのは母だった。
「お母さん。」
バッグを置くなり、母は優しく微笑む。
「良かったわね。」
「先生から退院のお話、聞いたわよ^_^」
その言葉に、香葉も思わず笑顔になる。
「^_^^_^」
ようやく親子で同じ喜びを分かち合えた。
母はベッドの横の椅子に腰を下ろす。
「長かったわね。」
「うん。」
短い返事だったが、その一言には色々な思いが詰まっていた。
少し間を置いて、香葉が口を開く。
「家に帰ったら……。」
「まず受験の準備始めないと」
母は思わず笑う。
「もう考えてるの?」
「うん。」
香葉は嬉しそうに頷く。
「総合選抜で提出する作品も作らないと。」
「入院中も色々デザイン考えてたんだ。」
そう言って、ベッド脇のスケッチブックを手に取る。
描きためたデザインを見せると、母は一枚一枚丁寧にページをめくった。
「……相変わらず、好きなのね。」
「うん。」
その返事に迷いはなかった。
母はスケッチブックを閉じ、優しく香葉の頭を撫でる。
「その前に。」
「しっかり体を整える。」
「無理はしちゃ駄目よ。」
香葉は少し照れくさそうに笑う。
「分かってる。」
「……でも。」
窓の外へ目を向ける。
夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。
「やっと前に進める気がする。」
母は何も言わず、その言葉に静かに頷いた。
退院はゴールではない。
それでも、香葉にとっては新しいスタートラインが、ようやく見えてきた瞬間だった。




