決定
学校から出された夏休みの課題を、香葉は黙々と進めていた。
毎日少しずつ。
体調のいい日は少し多めに。
無理はしない。
そう決めて続けてきた。
そして――。
「……終わった。」
最後のページを閉じる。
分厚かった課題の冊子が、ようやく終わりを迎えた。
達成感に思わず小さく息をつく。
その時だった。
コンコン。
病室のドアがノックされる。
「失礼します。」
主治医が笑顔で入ってきた。
「浜中さん、こんにちは。」
「こんにちは。」
「体調はどう?ちゃんと食事も摂れてる?」
「はい。前より食べられるようになりました。」
「うん、顔色もいいね。」
主治医はカルテに目を通しながら頷く。
「今日の血液検査の結果も確認したけど、数値は安定している。」
香葉は自然と背筋を伸ばした。
「この調子なら、予定どおり来週の水曜日を退院の日にしようと思っています。」
その一言に、香葉の表情がぱっと明るくなる。
「……本当ですか?」
「本当。」
主治医は笑顔で頷いた。
「ただ、前にも話したように、退院はゴールじゃない。」
「これからも定期検診は続くし、お薬もきちんと飲んでもらう。日常生活で気を付けてもらうこともある。」
「それでも、病院ではなく家で生活できる状態まで回復したということだから、自信を持っていいよ。」
香葉は深く頷いた。
「ありがとうございます。」
できるだけ平静を装って返事をする。
けれど、込み上げてくる嬉しさまでは隠しきれなかった。
ようやく帰れる。
学校へ。
いつもの日常へ。
その言葉が、何度も胸の中で繰り返されていた。




