LINE
亮が自分の席へ戻っていく。
教室は相変わらず賑やかだ。
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香葉は再びスマホを見る。
病院からの案内。
検査入院の日程。
持ち物。
検査内容。
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ため息が出る。
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「はぁ……。」
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気が重い。
何度経験しても慣れない。
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その時だった。
ふと。
ある人の顔が浮かんだ。
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「あ。」
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思わず小さく声が漏れる。
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草川さん。
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去年の検査入院で出会った新人看護師。
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当時はまだ一年目。
採血の準備をしながら、
必要以上に緊張していた。
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『大丈夫大丈夫!』
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そう言った直後に、
点滴のテープを落としていた。
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『全然大丈夫じゃないじゃん。』
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香葉が言うと、
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『バレた、、、』
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と笑っていた。
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頼りない。
正直かなり頼りない。
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でも。
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優しかった。
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検査の日。
緊張している時も。
結果待ちで落ち込んでいる時も。
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『もっと好きなことしなよ。』
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そんなことを言ってきたり。
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『退院したら何たべるの?』
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とか。
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『宿題終わった?』
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とか。
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看護師というより、
少し年上のお兄さんみたいだった。
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一人っ子の香葉には新鮮だった。
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スマホを開く。
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LINE。
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草川さん。
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ちゃんと残っている。
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最後のやり取りは数ヶ月前。
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草川さん
元気してるー?
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香葉
普通です。
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草川さん
普通が一番じゃん
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そこで終わっていた。
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「普通って何。」
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今見返すと少し笑える。
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送ろうかな。
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画面を見つめる。
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でも。
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忙しいだろうし。
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新人だったし。
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覚えてないかもしれないし。
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そもそも勤務変わってるかもしれない。
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指が止まる。
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送信画面。
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『今年も入院します。』
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そこまで打って。
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消した。
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「何やってんだろ。」
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自分で苦笑する。
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その時。
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「浜中。」
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また声。
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顔を上げる。
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古畑亮だった。
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「さっきからずっとスマホ見てる。」
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「見てない。」
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「見てる。」
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「暇なの?」
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「結構忙しい。」
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またその返し。
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香葉は呆れる。
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そして思う。
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草川さんはお兄さんみたいで。
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古畑は。
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何だろう。
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全然違う。
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全然違うのに。
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どっちも妙に人の心の中へ入ってくる。
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「古畑。」
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「ん?」
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「本当に暇なんだね。」
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「だから忙しいって。」
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亮が笑う。
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香葉も少しだけ笑った。
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スマホの画面はいつの間にか消えていた。
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草川さんにLINEを送るかどうか。
それはまだ決められない。
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でも。
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今年の夏も、
また病院へ行く。
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そして。
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もしかしたら。
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「浜中さん、今年もよろしく」
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なんて言いながら、
あの頼りない新人看護師が笑っているかもしれなかった。




