昼休み
昼休み。
四時間目終了のチャイムが鳴る。
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「腹減ったー!」
「購買行くぞ!」
「待てって!」
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教室は一気に騒がしくなる。
椅子を引く音。
笑い声。
机をくっつける音。
いつもの昼休み。
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香葉は自分の席に座ったままスマホを取り出した。
通知が一件。
母からだった。
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香葉は何気なく開く。
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母
病院から連絡ありました。
検査入院の日程決まりました。
持ち物の案内も来てます。
あと検査内容の説明も。
帰ったら一緒に確認しようね。
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そこまで読んだ瞬間だった。
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教室の音が少し遠くなる。
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分かっていた。
来ることは。
毎年のことだ。
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分かっていたのに。
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胸の奥が重くなる。
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画面をスクロールする。
添付された資料。
病院名。
入院日。
検査内容。
持ち物一覧。
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見慣れた文字。
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なのに。
何年経っても慣れない。
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「香葉ー。」
友達が声を掛けてくる。
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「お昼どうする?」
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香葉は慌ててスマホを伏せた。
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「ん?」
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「食堂行く?」
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「今日はいい。」
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「珍しい。」
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香葉は笑う。
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「ちょっとだるい。」
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「昨日休んでたもんね。」
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「うん。」
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友達はそれ以上聞かなかった。
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ありがたかった。
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今は説明したくない。
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大丈夫。
大丈夫。
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心の中で何度も繰り返す。
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検査だけ。
毎年のこと。
何も変わらない。
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そう言い聞かせる。
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だけど。
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もし。
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そんな言葉が頭をよぎる。
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結果が悪かったら。
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もし何か見つかったら。
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もし。
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考えても仕方ないのに。
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考えてしまう。
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香葉はスマホを握りしめた。
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その時だった。
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「浜中。」
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聞き慣れた声。
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振り向かなくても分かる。
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古畑亮だった。
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「何。」
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少しだけ強い口調になる。
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亮は気にしない。
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「機嫌悪い。」
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「普通。」
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「普通じゃない。」
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香葉はため息をつく。
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「何の用。」
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「昼飯。」
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「知らない。」
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「食べる?」
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「食べる。」
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「じゃあ良かった。」
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それだけ言う。
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香葉は眉をひそめた。
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「それ聞きに来たの?」
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「うん。」
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「暇なの?」
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「結構忙しい。」
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いつか聞いたやり取り。
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思わず少しだけ笑ってしまう。
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亮も笑う。
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その瞬間だけ。
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病院のことも。
入院のことも。
検査のことも。
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頭の隅へ追いやられた。
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ほんの数秒だけ。
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だけど。
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それで十分だった。
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亮は何も知らない。
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LINEの内容も。
検査入院のことも。
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それなのに。
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不思議だった。
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この人と話していると、
少しだけ息がしやすくなる。
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窓の外では夏の日差しが校庭を照らしていた。
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入院の日まであと数週間。
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香葉はまだ知らない。
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その夏が、
自分にとって忘れられない夏になることを。




