翌朝
翌朝。
雨は上がっていた。
雲の隙間から薄く光が差し込んでいる。
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香葉は目を覚ました。
時計を見る。
午前六時半。
昨日よりは身体が軽い。
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……軽い。
と言っても絶好調ではない。
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疲れは残っている。
だるさも少しある。
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でも。
学校へ行けないほどではない。
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「行くか。」
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誰に言うでもなく呟く。
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リビングへ降りると母がいた。
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「おはよう。」
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「おはよう。」
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母は香葉の顔を見る。
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「どうする?」
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「行く。」
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「無理しないでね。」
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「うん。」
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母はそれ以上何も言わなかった。
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香葉も助かった。
これ以上心配されると、
逆に申し訳なくなる。
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朝食を食べる。
支度をする。
バッグを持つ。
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いつも通り。
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そのはずなのに。
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家を出た瞬間。
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「暑い……。」
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六月の朝。
湿気を含んだ空気が身体にまとわりつく。
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まだ朝なのに。
夏の気配が近付いていた。
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駅へ向かう。
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少しだけ足取りが重い。
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(大丈夫。)
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心の中で呟く。
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(今日一日くらいなら。)
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そう言い聞かせる。
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ホームに着く。
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人混み。
電車。
いつもの景色。
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そして。
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「おはよう。」
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聞き慣れた声。
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香葉はため息をついた。
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「……いた。」
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目の前には古畑亮。
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「何その反応。」
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「毎日いる。」
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「だって通学路だし。」
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「知らない。」
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亮は笑う。
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相変わらずだった。
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長い前髪。
ダボっとしたシャツ。
朝から妙に元気。
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「昨日休んでたな。」
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不意に言われる。
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香葉は少しだけ固まった。
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「うん。」
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「風邪?」
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「違う。」
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「じゃあ何。」
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「ちょっと疲れてただけ。」
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亮は数秒黙る。
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「そっか。」
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それ以上聞かなかった。
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香葉は少し意外に思う。
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もっと聞いてくると思った。
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『大丈夫?』
とか。
『病院行った?』
とか。
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でも亮は何も言わない。
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ただ。
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「無理すんなよ。」
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それだけだった。
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電車がホームへ入ってくる。
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二人は並んで乗り込む。
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香葉は窓の外を見る。
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流れていく景色。
朝の光。
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疲れはまだ残っている。
不安もある。
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だけど。
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昨日より少しだけ気持ちは軽かった。
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隣を見る。
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亮はイヤホンを片方外して、
ぼんやり外を眺めている。
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本当に変な人だ。
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そう思いながら。
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香葉は小さく笑った。
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そして気付かない。
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その笑顔を見て、
亮が少しだけ安心したことを。




