甲子園
その日の午後。
何気なくテレビの電源を入れる。
画面には白球を追う高校球児たちの姿が映し出されていた。
「……もう高校野球か。」
病院にいると日にちの感覚が薄くなる。
テレビを見て初めて、「もうそんな季節なんだ」と気付いた。
香葉は野球にはあまり興味がない。
自分の高校にも野球部はある。
少し前は甲子園に頻繁に出場して、プロも輩出していた。が、最近は県大会ベスト8か4止まり。
その代わり、香葉が通う高校は全国に系列校がある大学の附属校だ。
系列校の中には甲子園常連校もあり、この時期になると学校から必ず連絡が来る。
『系列校 ○○高校が全国高等学校野球選手権大会への出場を決めました。系列校の皆さんも応援しましょう。』
そんな一斉連絡が、毎年スマホに届く。
「そういえば……今年も来てるのかな。」
香葉はぼんやりと思い出す。
とはいえ、自分の学校で盛り上がるのは野球よりもサッカーだった。
冬になると、全国高校サッカー選手権の常連である香葉の学校は教室でも話題になる。
「今年も勝ったらしいよ。」
「準決勝進出だって。」
そんな会話が自然と聞こえてくる。
文化祭でも、体育祭でも、サッカー部の先輩が話題になることは多い。
だから香葉にとって、高校野球は”夏が来たことを知らせてくれる風物詩”くらいの存在だった。
テレビからは応援団のブラスバンドが流れている。
アルプススタンドいっぱいの生徒たち。
照りつける日差しの中、一生懸命声を張り上げていた。
「暑そう……。」
思わず小さく笑う。
その光景を眺めながら、香葉は窓の外へ視線を移した。
病院の外でも、ちゃんと夏は進んでいる。
そして、自分の時間も少しずつ前へ進んでいるのだと、静かに感じていた。




