1人
病室は静かだった。
⸻
さっきまでいた母の姿はもうない。
笑っていた声も、
心配そうに見つめる視線も。
今はない。
⸻
「……。」
⸻
香葉はベッドへ腰を下ろした。
⸻
夕食は思ったより食べた。
⸻
母にも褒められた。
⸻
診察の時も。
病室でも。
ちゃんと笑えた。
⸻
大丈夫だと言えた。
⸻
でも。
一人になった途端だった。
⸻
急に怖くなる。
急に静かになる。
⸻
急に現実が近付いてくる。
⸻
主治医の言葉。
年配の医師の表情。
⸻
『もう少し詳しい検査と経過観察が必要です。』
その言葉が何度も頭の中で繰り返される。
⸻
「……。」
⸻
本当は怖い。
すごく怖い。
⸻
今後どうなるんだろう。
⸻
学校は。
進路は。
服は作れるのかな。
普通に生活できるのかな。
そんな考えばかり浮かんでくる。
⸻
香葉は枕元のスマホを見る。
⸻
朝から開いていないLINE。
⸻
古畑亮。
⸻
一番上に表示されたまま。
⸻
「……。」
⸻
開けばいいのに。
⸻
そう思う。
⸻
でも、
開いたら、、、
気が抜けてしまいそうだった。
⸻
気丈でいる自信がなくなりそうだった。
⸻
主治医の前では平気だった。
母の前でも平気だった。
⸻
でも。
⸻
一人になると気持ちは正直だ。
⸻
強がりは長く続かない。
⸻
香葉はスマホを手に取る。
⸻
画面が光る。
⸻
古畑亮。
⸻
その名前を見るだけで、
少しだけ胸が熱くなる。
⸻
そして同時に。
少しだけ安心してしまう自分もいた。
⸻
「……。」
⸻
香葉は小さく息を吐いた。
⸻
病室の時計は静かに時を刻んでいる。
長い夜になりそうだった。




