笑顔
ちゃんと病室でも夏休みの宿題やるよ^_^」
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香葉は笑いながら言った。
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「夏休み中の入院だからよかったー」
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母は黙って聞いている。
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「出席日数気にしなくていいし。」
「……。」
「担任も。」
香葉は少し笑う。
「今の成績だったら希望の大学の推薦取れるって言ってたし。」
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北原先生の顔が浮かぶ。
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『ちゃんと勉強しろよー』
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そんな声まで聞こえてきそうだった。
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「だから。」
香葉は母を見る。
「ちゃんと治さないとね^_^」
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明るい声。
前向きな言葉。
何も問題ないような笑顔。
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でも。
母にはそう見えなかった。
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むしろ逆だった。
頑張りすぎているように見えた。
無理しているように見えた。
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母は静かに言う。
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「香葉。」
「ん?」
「無理してない?」
「してないよ^_^」
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すぐ返ってくる。
その速さが余計に心配だった。
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母は少し俯く。
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「辛かったら。」
「……。」
「無理しなくていいのよ。」
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病室が静かになる。
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香葉は少しだけ母を見つめた。
そして。
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困ったように笑う。
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「大丈夫だよー」
「……。」
「お母さんこそそんな顔しないでよー。」
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香葉は肩をすくめる。
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「命に関わるわけじゃないんでしょ?」
「先生もそう言ってたし。」
「今はちゃんと調べてる途中。」
「だから大丈夫、、、」
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母は何も言わなかった。
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言えなかった。
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目の前にいる娘は笑っている。
ちゃんと未来の話もしている。
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大学。
服作り。
宿題。
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全部諦めていない。
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でも。
母には分かる。
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小さい頃から見てきた。
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この子は。
本当に辛い時ほど笑う。
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本当に不安な時ほど、
周りを安心させようとする。
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だから今。
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「大丈夫。」
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その言葉が一番信じられなかった。
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それでも母は笑った。
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「そうね^_^え」
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今はそれしか言えなかった。
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病室の窓の外では、
夏の夕陽がゆっくり沈み始めていた。




