結論
主治医は一度言葉を区切った。
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診察室は静かだった。
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香葉も母も、
次の言葉を待っている。
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主治医は穏やかな口調のまま続けた。
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「今後のためにも。」
「治療方針も含めて、もう少し詳しい検査と経過観察が必要になります。」
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「……。」
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香葉は俯く。
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やっぱり。
そんな気がしていた。
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主治医はモニターを見ながら説明を続ける。
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「今回の採血結果や画像検査だけでは、まだ判断しきれない部分があります。」
「ただ。」
「体調の変化がここ数か月ではっきり出ている。」
「そして検査結果にも変化が出ている。」
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母が静かに尋ねる。
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「入院は延びるのでしょうか。」
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主治医は頷いた。
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「はい。」
「予定していた期間では難しいと思います。」
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香葉は目を閉じる。
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やっぱり。
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帰れないんだ。
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学校。
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友達。
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夏休み。
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頭に浮かんでは消えていく。
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年配の医師が初めて口を開いた。
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「浜中さん。」
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香葉は顔を上げる。
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「今は不安だと思います。」
「……はい。」
「でも。」
「原因が分からないまま過ごすより。」
「今しっかり調べた方がいい。」
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静かな声だった。
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脅かすでもなく。
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誤魔化すでもなく。
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ただ事実を伝えてくれる声。
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主治医も続ける。
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「幸い。」
「今すぐ緊急の治療が必要な状態ではありません。」
「だからこそ。」
「落ち着いて検査ができる。」
「そして今後の生活を考えた治療方針を決めていける。」
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香葉は小さく頷く。
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頭では分かっている。
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でも。
心が追いつかない。
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主治医はそんな香葉を見ながら優しく言った。
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「焦らなくていい。」
「五日間、本当によく頑張った。」
「ここから先は、一緒に整理していこう。」
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その言葉に。
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香葉は初めて少しだけ肩の力を抜いた。
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まだ終わらない。
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でも。
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一人で抱える必要もないのかもしれない。
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そう思えたのは、
ほんの少しだけ前に進んだ気がしたからだった。




