話
主治医はモニターへ視線を向ける。
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そして静かに話し始めた。
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「小さい頃の病気。」
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香葉の表情が少し変わる。
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主治医は続ける。
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「覚えているかな?」
香葉は小さく頷いた。
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詳しいことは覚えていない。
でも。
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幼い頃。
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何度も病院へ通ったこと。
同級生より外で遊べなかったこと。
夏になると体調を崩しやすかったこと。
それくらいは覚えている。
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主治医は検査結果を見ながら話す。
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「今回の検査結果を見る限り。」
「小さい頃の病気に関連する変化が、現在も影響している可能性が高いと考えています。」
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「……。」
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香葉は言葉を失う。
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終わったと思っていた。
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治ったと思っていた。
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少なくとも。
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過去のことだと思っていた。
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なのに。
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今も続いているかもしれない。
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主治医は慌てさせないように続ける。
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「もちろん、まだ確定ではありません。」
「だからここまで色々な検査をしてきました。」
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隣にいた年配の医師も頷く。
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「今出ている症状と検査結果を総合して確認している段階です。」
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母は静かに聞いている。
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香葉は膝の上で手を握る。
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「じゃあ……。」
声が少し掠れる。
「私は。」
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言葉が続かない。
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主治医は優しく答えた。
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「今すぐ何か大きく変わる訳ではないよ。」
「……。」
「学校も。」
「進路も。」
「将来の夢も。」
「今の段階で諦める話ではない。」
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香葉は少しだけ顔を上げる。
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主治医は微笑んだ。
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「だからまずは正しく知ろう。」
「今、自分の身体に何が起きているのか。」
「それが一番大事だから。」
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診察室は静かだった。
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でも。
香葉には分かった。
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これは。
ただの検査入院では終わらない。
そんな予感だけが、
胸の奥に静かに残っていた。




