第97話:突然の解放、あるいは狂乱の渦
連日の厳しい取り調べは、終わる気配がなかった。
いよいよ裁判が始まるという話まで聞こえてきて、
私は自分の未来が閉ざされたと覚悟していた。
ある朝、独房の重い鉄扉が鈍い音を立てて開いた。
入ってきたのは、私を厳しく問い詰めていた
あの年配の警察官だった。
「……裁判所への移送ですか?」
私が力なく立ち上がると、彼はどこかバツが悪そうに
視線を泳がせ、言葉を濁すように告げた。
「……いや、釈放だ。君は今すぐ身辺の整理をして、
ここを出ていいことになった。……行きなさい」
「え……? 釈放……って、どういうことですか?」
耳を疑ったが、刑事はそれ以上何も語らなかった。
狐につままれたような気分で、警察署の玄関を抜ける。
だが、自動ドアが開いた瞬間、私の視界は
数え切れないほどの真っ白な光に埋め尽くされた。
バシャバシャバシャ! と無数に焚かれるフラッシュ。
「古谷さん!」「こちらに一言!」「街を救った感想を!」
怒号のような取材陣の声と、突きつけられるマイク。
そこには、警察署を幾重にも取り囲むような人だかりと、
「救世主を釈放しろ!」というプラカードを掲げて
叫び続ける、熱狂的な群衆の姿があった。
テレビの生中継車が何台も並び、アナウンサーが
カメラに向かって私の解放を絶叫している。
何が起きているのか分からず、立ち尽くす私の隣に、
いつの間にか九条エマさんが寄り添っていた。
「驚いたでしょう? ……だから、大丈夫って言ったでしょ」




