第93話:英雄の帰還、あるいは罪人の烙印
虹色の余韻が消え、静止したタンカーを背にして、
ガソタムは夕闇の海上に静かに浮かんでいた。
上空からは、自衛隊のヘリの爆音が響き渡る。
『――警告。直ちにその場に停止し、投降せよ』
サーチライトの強烈な光に晒され、私は息を呑んだ。
正体不明の巨大ロボット。自衛隊がこれを知るはずもない。
何と名乗ればいい? テロリストじゃないとどう伝える?
私は混乱しながらも、震える指で外部スピーカーを入れた。
「……あ、あの、撃たないで! 私は……私はただ、
その、指示に従います! 抵抗なんてしませんから!」
名乗ることすらできず、必死に無害を訴えるしかなかった。
私はスイッチを切ると、自衛隊の誘導に従い、
機体をゆっくりと港の埋立地へ着地させた。
モニター越しに見えるのは、青赤い光を放つ
無数のパトカーと、銃を構えた警察官の群れだった。
「……やっぱり捕まるんだ。でも、ちょっとまてよ……」
ハッチを開けようとして、私はある恐怖を思い出した。
「おじいちゃん! このスーツ、外気に触れると溶けるって言ったわよね!?
今降りたら、私、警察の前で裸になっちゃうじゃない!」
外気に触れると溶けると言われた恐怖で、私は必死だったのだ。
『……ああ、あれか。麗、気にするな。あれは嘘じゃ。
溶けると言えば、お前がスーツを持ち帰って、
事前に着替えてから乗るのを諦めると思ったんじゃよ』
「…………は? どういうことよ」
『お前をこの椅子に生身で座らせん限り、服が消えて
スーツが展開される瞬間の裸は記録できんからな。
そのための嘘じゃ! わしの執念の勝利じゃな!』
この土壇場で、このスケベじじいは何を言っているの!?
私が裸を見られたくないから事前に着替えるって言ったのを、
そんな最低な嘘で封じ込めていたなんて!
私は、外で待ち構える警察官たちよりも、
この最低なAIを今すぐ粉々に
スクラップにしてやりたい衝動に駆られていた。




