第9話:区分地上権という、詰みの宣告
広場で声を張り上げているのは、予想通りの顔ぶれだった。
近所の農家のおじさんや、退職したおじいちゃんたちだ。
「……あの、すみません」
私は、一番前でメガホンを握る男性に声をかけた。
五十代くらいの、いかにも『頑固一徹』なリーダー格だ。
男は、女子高生の登場に驚いたように目を丸くした。
「あんた、学生さんか? ここは危ないから離れなさい」
「いえ、私……古谷といいます。
あそこの山裾にある、おじいちゃんの家を相続した者です」
その瞬間、リーダーの表情が劇的に変わった。
「古谷……? もしかして、あの源造さんの孫か!」
リーダーはガシッと私の肩を掴み、興奮気味に言った。
「そうか、あんたが! あそこの土地は計画の要なんだ。
地下鉄は地表を買わなくても、地下を使う権利が必要でな」
『区分地上権』の設定。それがなければ、工事は進められない。
そしてその契約には、地下の精密な調査がセットで付いてくる。
「あんたがハンコを押さなきゃ、あいつら勝手に掘れんのだ。
頼む、お嬢ちゃん。あそこの地下を、奴らに明け渡さないでくれ!」
……明け渡すも何も、調査なんてされたら終わりだ。
登記にない巨大空間と、十八トンのガソタム。
バレた瞬間に、私は『違法建築の隠匿犯』としてニュースに載る。
「……分かりました。私、絶対にハンコは押しません」
期待に満ちた彼らの瞳を見つめ、私は力強く頷いた。
守りたいのは思い出じゃない。自分の前科がつく未来だ。
私の平和な女子高生ライフは、今この瞬間。
ガソタムを隠し通すための『ジャンヌ・ダルク』へと変貌した。




