第10話:教室の期待と、私の防衛線
学校に着いても、私の心臓はバクバクと鳴りっぱなしだ。
昨日のデモと、区分地上権。……全部、ガソタムのせい。
休み時間、親友のサキたちがスマホを囲んで盛り上がっていた。
「ねえ、聞いた? 駅の再開発、本格的に始まるんだって!」
「地下鉄が通れば、隣の市のシネコンもすぐ行けるよね」
サキが、目を輝かせて私に同意を求めてくる。
「うららも嬉しいでしょ? スタバとかできちゃうかもよ!」
「……え、あ、う、うん。……そう、かな」
私は引きつった笑みを浮かべ、必死に言葉を絞り出す。
ここで賛成したら、私の家の地下が掘削機で貫通される。
「でも、ほら。むやみに開発するのって、よくないと思うな」
「えー、なんで? 便利になるんだよ?」
サキの純粋な疑問が、胸に突き刺さる。
……便利さより、私の前科回避の方が大事なんだよ。
「その、自然とか……お年寄りの思い出とか、あるし。
地下を掘りすぎると、地盤が緩んで家が沈むかも……しれないし」
しどろもどろに、ありったけの知識でネガティブキャンペーン。
クラスメイトたちは「うらら、意外と古風なんだね」
と、不思議そうな顔で私を見ている。
……違う。古風なんじゃなくて、死活問題なんだ。
もし地下鉄が通れば、私の地下室は『発見』される。
おじいちゃんのガソタムが、クレーンで吊り上げられる。
その横で、手錠をかけられた私の姿が全国放送。
そんなの、スタバの新作より百倍も恐ろしい。
「私は、今のままの……静かなこの町が、好きなの」
嘘じゃない。ガソタムさえいなければ、大賛成だったけど。
私は、自分に言い聞かせるように、教科書を強く握りしめた。




