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第84話:宝石の記憶、あるいは覚悟の涙
迫るタイムリミット。私は震える手で胸を抱きしめた。
目を閉じれば、この街の大切な記憶が溢れだしてくる。
優しかった両親。笑い合ったサキやチカの笑顔。
帰り道に声をかけてくれた、隣の家のあのおばあちゃん。
その全てが、あの不気味な鉄の塊に飲み込まれようとしている。
「……嫌だよ。みんながいなくなるなんて、絶対に嫌だ」
頬を伝う涙が、九条さんのペンダントに静かに落ちた。
「……バロ、いやおじいちゃん。私、この町を守りたい」
私の震える決意に応えるように、室内を柔らかな光が包む。
『……いいのか、麗。二度と普通の生活には戻れないぞ。
それでも……後悔はしないか?』
耳に届いたのは、いつもの執事ではない、あの懐かしくて
どこまでも優しい、本物のおじいちゃんの声だった。
「うん。後悔なんてしない。おじいちゃん、手伝って!」
私は涙を拭い、潤んだ瞳の奥に燃えるような強い決意を灯した。
おじいちゃんの声に背中を押されるように、
私はガソタムへと繋がる「あの椅子」へ向かって走り出した。




