第83話:天秤の重み、あるいは正義の代償
「衝突まで残り20分です。猶予は、もうありません」
バロの無機質な宣告が、重苦しい静寂を切り裂いた。
私は窓の外、パニックに陥った街を見つめたまま尋ねた。
「……バロ。もしガソタムを起動したら、あの船を止める
ことはできるの?」
モニターには、軍用火薬とミサイルを積んだ怪物の影。
『私の計算では、絶望的です。不壊の装甲を持つとはいえ
30万tの鉄塊が持つ慣性は、動く山そのもの。それを
正面から押し留めるなど、物理法則への反逆と言えます』
バロは淡々と答え、しかし続く言葉は酷く冷たかった。
『衝突の衝撃で爆薬を誘爆させぬよう、完璧な精密制動を
維持する成功確率は五分五分。失敗すれば街は消滅し、
成功してもレイ様は軍隊並みの武力を行使した罪により
「最重要テロリスト」として生涯追われる身となります』
モニターには、想定される罪名と罰則が次々と列挙される。
それは、私の輝かしいはずの未来が塗り潰される記録だった。
『学校へも通えず、普通の生活は二度と送れないでしょう。
ご自身の人生を捨ててまで、守る価値があるのですか?』
バロの問いかけが、私の胸を深く突き刺した。
何万もの命か、私自身の未来か。
運命の針は、止まることなく最悪の瞬間へ刻まれていく。




