第77話:禁忌の遺産、あるいは国家の拒絶
さっきまでの和やかな空気は、九条さんが
ティーカップを置いた瞬間に
凍りついた。彼女の瞳には、先ほどまでの
茶目っ気は微塵もない。
「麗さん、単刀直入に言うわね。……この地下に、
あるのでしょう?
あの人が人生のすべてを懸けて作り上げた、
巨大な機動兵器が」
「……っ。それは……その……」
私は反射的に誤魔化そうとしたが、
バロ(おじいちゃん)の正体を
瞬時に見抜いた彼女の前で、嘘が通用しないことは
痛いほど分かっていた。
「……はい。ガソタムという、
おじいちゃんのロボットがあります」
観念して頷くと、九条さんは深く、
重い溜息を吐いて私を見つめた。
「いい、麗さん。何があっても、
決してあの機体を起動してはいけないわ。
世界がどれほど混乱し、
テロの脅威がすぐそばに迫っていたとしてもよ」
「……どうして? おじいちゃんは、
平和のために備えろって言ったのに」
「この国の法整備は、驚くほど頭が固いの。
一個人が軍隊に匹敵する力を
持つなんて、憲法も法律も絶対に受け入れない。
動かした瞬間に、
あなたは英雄ではなく、国家を脅かす
『最重要テロリスト』になるのよ」
九条さんの言葉は冷酷なまでに正論だった。
正体不明の武装集団よりも
先に、自国の法と警察が、女子高生である私を
敵として包囲する。
「源造さんは天才だった。でも、社会の仕組みを
変えることはできなかった。
……麗さん。あの機体は、一生地下で
眠らせておくのが一番の幸せなの」
私は、おじいちゃんが遺した「正義」と、
社会が強いる「現実」の狭間で、
冷たくなった紅茶を見つめたまま、
言葉を失うしかなかった。




