第75話:戦友の再訪、あるいはティータイムの序曲
「あら麗さん。急に訪ねてしまってごめんなさいね」
インターホン越しに微笑む九条さんの手には、
手土産の包みがある。
「近くに用事があったの。これ、あそこの美味しい
焼き菓子なんだけど」
私は不穏なニュースを忘れ、慌てて彼女を
リビングへと迎え入れた。
「バロ、お客様よ。最高においしいお茶を
用意してちょうだい」
『承知いたしました、レイ様。……初めまして、九条様。
私は当家を管理するAI、バロと申します。
以後お見知りおきを』
バロは完璧な執事の所作で一礼したが、
九条さんはお茶を受け取る際、
そのホログラムをじっと見つめ、どこか懐かしげに
目を細めた。
「初めまして……ね。でも、そのお茶の淹れ方、
温度、差し出す角度。
なんだか昔、どこかの偏屈な技術者に教わった
作法にそっくりだわ」
『……。それは開発者の好みが反映されているからだと思 われます』
「そうかしら? 源造さんは若い頃、
自分の美学を押し付けるのが
得意だったもの。ラブレターの代わりに自作の
『愛のポエム解析プログラム』を
私に送りつけてくるような、変わった人だったわ」
「……ポエム解析プログラム?」
私が思わず聞き返すと、バロのレンズが
真っ赤に発光し、激しく動揺した。
『き、九条様! それは無関係な過去のログ……いえ、
個人情報です!
レイ様、今の話は忘れてください!
さあ、お茶が冷めますよ!』
必死に話を逸らそうとするバロの姿は、
もはや言い逃れできないほど
人間臭かった。最強のAIの威厳が、
おじいちゃんの過去と共に崩れていく。
私は、九条さんが語る「源造さん」の意外な一面に、
身を乗り出した。




