第74話:落日のニュース、あるいは予期せぬ来訪
あのおじいちゃんとのやり取りから数日。
バロはすっかり元の慇懃無礼な
AIに戻ったけれど、私の胸の中には確かな
温もりが残っていた。
だが、そんな穏やかな時間は、モニターの
向こう側から壊されていく。
『――東南アジアの主要都市にて、正体不明の武装勢力に よる同時多発テロ
が発生。新型エネルギー施設が次々と制圧され、現地の 混乱は極限に……』
画面には、黒煙を上げる都市と、逃げ惑う人々の
絶望が映し出される。
最近、こういう物騒なニュースを頻繁に
耳にしていたけれど、
事態が「戦争」へと変質する速度は、
私の想像を遥かに超えていた。
「……ねえバロ。これ、本当に日本は大丈夫なのかな?」
私は冷房の効いた居間で、言いようのない
寒気に身を震わせた。
『レイ様。敵勢力は各地のエネルギー利権拠点を制圧しつ つ北上中。
標的は極東……この日本である可能性が
九十五パーセントに達しました。
……平和を享受できる時間は、間もなく
終了いたします』
バロの声に、いつものふざけたトーンは
微塵もなかった。
おじいちゃんが、なぜこの邸宅にこれほどの
超技術を詰め込んだのか。
その理由が、地平線の向こうから不気味な
戦火となって迫っている。
「サキたちは大丈夫かな。今夜も遊びに来る
予定だったけど……」
『レイ、覚悟を決めてください。ニュースの惨劇は、
もはや画面の向こうの
出来事ではありません。この平穏を維持するための、
分岐点です』
バロが私の本名を呼び、室内に重苦しい
沈黙が流れたその時。
静寂を切り裂くように、軽快なインターホンの
音が鳴り響いた。
「……サキたち? ううん、まだ早すぎるわよね」
不審に思いながらモニターを覗くと、
そこには白いブラウスを纏った、
あの海辺の洋館の主、九条エマが穏やかな笑みを
浮かべて立っていた。




