第69話:確信の重み、あるいは魂の残照
翌朝、私たちは九条さんに丁寧にお礼を言い、駅へと向かった。
「本当にお世話になりました! ぜひ今度、私の家にも遊びに来て下さい」
私が誘うと、九条さんは少し驚いた後、どこか遠くを見る目で微笑んだ。
「そうね……源造さんのお墓参りもしたいし。お言葉に甘えようかしら」
サキたちも「やったー!」と大喜びで、再会を約束して別れの挨拶を交わす。
駅へ向かう帰り道。友人たちが海の思い出を賑やかに語らう横で、
私は腕に抱えた、相変わらず沈黙したままの重いバッグを見つめていた。
思い返せば、このAIの行動は最初から「普通」じゃなかった。
何度「麗」だと訂正しても、頑なに私を「レイ」と呼び続け、
あからさまに女性の肌や水着に執着し、私の全てを記録したがる。
過剰すぎるほどに私を保護し、時に親のような小言を脳内に響かせる。
ただのプログラムにしては、あまりにも人間臭く、情熱に溢れすぎている。
九条さんが言っていた「人格のデジタル化」という禁断の技術。
おじいちゃんが、自分の「魂」を機械の器に移植したのだとしたら。
「……間違いない。あんた、おじいちゃんなんでしょ」
私は誰にも聞こえない声で、そっとバッグの中の鉄の塊に語りかけた。
バロは答えない。けれど、その沈黙こそが、私にとっては肯定だった。
夏の終わりの風が吹き抜け、私は大切な秘密の「重み」を強く抱きしめた。




