第65話:白亜の洋館、あるいは隠された鏡像
あの女性と出会ってから、バロはバッグの中で不自然なほど黙り込んで
いた。いつもなら余計な口を出すはずなのに、音ひとつ立てない。
松林を抜けた先に現れたのは、歴史を感じさせる重厚なレンガ造りの洋館。
蔦の絡まる外観は、おとぎ話に出てくる貴族の館のようだった。
「わあ、すごい……! 麗の家とはまた違った格好良さだね」
サキが感嘆の声を上げる。女性が微笑みながら、重い木扉に手を触れた。
『生体認証完了。ようこそ、ゲストの皆様』
突如、無機質な合成音声が響き、扉が滑らかに開いた。
一歩中に入ると、アンティークな内装とは対照的に、壁一面のパネルが
青白く発光し、室内は驚くほどハイテクな設備で満たされていた。
「え……何これ。ここも最新のスマートホームなの?
なんだか、麗の家にそっくり……っていうか、バロみたい!」
チカが驚いて叫ぶ。そのシステム構成は、私の家のものと酷似していた。
「あら、お友達の家もそうなの? これ、実は私が趣味で作ったものなの。
古いものを残しつつ、中身を最新に作り変えるのが楽しくて」
女性は穏やかに笑うと、ふと思い出したように私の方を振り返った。
「そういえば、まだお名前を伺っていなかったわね。あなた、お名前は?」
「あ、名乗るのが遅くなってごめんなさい! 私、古谷麗
と言います」
私が慌てて頭を下げると、女性の表情が一変した。優雅に微笑んでいた
彼女の瞳が大きく見開かれ、驚きで言葉を失っている。
「古谷……麗……? じゃあ、あなたは、あの源造さんの
お孫さんなの……!?」
女性の問いかけに、私は息を呑んだ。おじいちゃんの知り合い?
足元のバッグの中では、バロが依然として不気味なほどの沈黙を保った
まま、一点の光も漏らさずにじっと息を潜めていた。




