第64話:予期せぬ招待、あるいは海辺の別邸
私たちは藁にもすがる思いで、その女性に今の状況を正直に話した。
バスに乗り遅れたこと。スマホが圏外でタクシーすら呼べないこと。
「まあ、それは大変ね。すぐ先に私の家があるから、電話を貸してあげるわ」
女性の優しい言葉に救われた思いがしたが、彼女はふと空を見上げ、
手元の腕時計を確認すると、少し困ったように眉を下げて続けた。
「でも……今からタクシーを呼んで駅に向かっても、最終列車には
間に合わないんじゃないかしら。この辺りは夜道も暗くて危ないですし」
言われてみればその通りだ。慣れない土地で、深夜に放り出される不安。
サキとチカが顔を見合わせ、絶望に沈みかけたその瞬間だった。
「もしよろしければ、今夜は私の家に泊まっていきなさいな。
掃除も行き届いているし、女の子三人くらいなら、ゆっくり眠れるわ」
突然の提案に、私は耳を疑った。初対面の私たちを泊めてくれるなんて。
けれど、女性の瞳には一点の曇りもなく、純粋な善意だけが宿っている。
「本当ですか!? 助かります……! ありがとうございます!」
サキとチカが歓声を上げる。私は少し戸惑いながらも、同意せざるを得ない。
私たちは女性の後に続き、松林の先に佇む静かな洋館へと歩き出した。
海辺の不思議な縁。私の夏休みは、思わぬ方向へと舵を切っていた。




