第63-2話:碧の狂乱、あるいは宵闇の救い主
「見て麗! あそこまで競争だよ!」
サキが飛沫を上げて走り出す。私もバッグを浜辺のシートに放り投げて、
キラキラと輝く青い波間へと飛び込んだ。
冷たい水が、火照った肌を心地よく包み込む。
私たちは泳ぎ、浮き輪で揺られ、時には激しく水を掛け合った。
おじいちゃんの秘密も、バロの小言も、今はただの遠い夢のようだ。
お昼には海の家で、潮風を感じながらラーメンと焼きそばを平らげた。
「おじいちゃんの家の料理もいいけど、外で食べるのは別格だね」
チカが笑い、私たちはまた波打ち際へと駆け出していく。
時間が経つのも忘れ、砂浜でスイカ割りに興じ、記念写真を何枚も撮る。
バロのカメラバッグも、今はタオルの下で静かに砂を被っていた。
やがて、太陽が水平線に近づき、空が燃えるような茜色に染まり始める。
「楽しかったね……。そろそろ、片付けて駅に向かおうか」
サキが少し名残惜しそうに言い、私たちは重い腰を上げた。
だが、更衣室を出てバス停に着いた時、私たちは自分たちのミスに絶句した。
「うそ、終バス行っちゃってる……。平日のダイヤと見間違えてた!」
サキが時刻表を指差して叫ぶ。ここは本数が極端に少ない田舎の海岸だ。
さらに、スマホの画面を見たチカが追い打ちをかけるように言った。
「……圏外。うそでしょ」
暮れなずむ海辺。バスに乗り遅れ、途方に暮れる私たちの背後から、
松林を抜けて、一人の品の良い中年女性が歩いて現れた。
清潔な白いブラウスを着たその女性は、慈愛に満ちた笑みを浮かべて、
困り果てた私たちに、歌うような優しい声で語りかけてきた。
「あら、こんな時間に女の子たちだけでどうしましたか?」
その眼差しはどこまでも穏やかで、ただ純粋に、
立ち往生している私たちを心配してくれているようだった。




