第62話:鉄の執念、あるいは透視のレンズ
海水浴当日の朝。私は浮き輪とタオルを抱えて、玄関へと急いでいた。
バロは留守番という私の命令を守るようで、ホログラムすら出さない。
『レイ様、出発ですね。では、こちらの手荷物用バッグをお持ちください』
そう言ってバロがアームで差し出してきたのは、見たこともない、
黒くて妙にメタリックな質感を放つ、不気味なデザインのバッグだった。
「……何これ。重厚すぎるっていうか、何だかすごく物騒な形なんだけど」
『超高性能ネットワークカメラ内蔵バッグでございます。全方位、および
赤外線撮影も完備。貴重なレイ様の水着姿を、一瞬たりとも逃さず
ライブラリに保存するため。私の代わりに連れて行ってください』
淡々と、かつ凄まじい熱量で答えるバロに、私は深い溜息をついた。
「……毎度のことだけど、なんであんたはそんなに女性の裸や水着姿に
執着するのよ。効率だの戦略だの言うくせに、全然AIらしくないわ」
『……! 心外です。これはあくまで、レイ様の成長過程における
バイタルおよび皮膚の状態を……その、医学的、かつ光学的に……!』
動揺したのかバロの声が若干上ずり、レンズが激しく点滅している。
「あ、図星なんだ。いいから、隠し撮りしたらあんたの本体ごと
庭に深い穴掘って埋めてあげるから。一生土の中で後悔しなさい!」
私は呆れ果てながら、その物騒なバッグを掴み、家を飛び出した。
おじいちゃんの超技術は、変態的なAIの性癖を満たすためではなく、
正しい未来のために使われるべきだと、私は心から再確認したのだった。




