第61話:青い誘惑、あるいは戦士の休息
ニュースの嫌な予感を振り払うように、スマホが軽快な通知音を鳴らす。
サキからのグループトークには、眩しい太陽と海のスタンプ。
「ねえ、今度の週末、みんなで海に行かない? 新作の水着買ったんだ!」
海。その響きだけで、私の心はニュースの砂埃から一気に解放された。
私たちの街から海までは、近くはないけれど、決して遠くもない。
電車に揺られれば日帰りで十分行けるし、一日たっぷり遊べる距離だ。
「賛成! 私も行きたい! おじいちゃんの家に籠もってばかりだしね」
私は即座に返信した。最近、地下の操縦席にばかり座っていたせいで、
自分が女子高生であることを忘れかけていた。今は訓練より海水浴だ。
『レイ様。海上、および水中での戦闘データの蓄積は現時点で皆無です。
海水浴を装った「水陸両用戦訓練」を推奨いたします』
「しないわよ! 海は遊ぶところ! バロは留守番してて!」
脳内での不毛な言い合いを切り上げ、私はクローゼットの奥から、
去年買ったきりの水着を引っ張り出した。
日本はまだ、こんなに平和だ。テロも利権も、波の音が全部消してくれる。
私は、おじいちゃんが遺した「兵器」の存在を意識の隅に追いやって、
青い海と白い砂浜、そして何より「普通の夏」に、心から期待を寄せた。




