第60話:夏休み、あるいは予兆の静寂
あれからサキたちは遠慮なんて言葉を忘れたように、何度も我が家へ
泊まりに来るようになった。……隠蔽工作は毎回、冷や汗ものだけど。
でも、一人ぼっちだったこの家が笑い声で満たされるのは正直嬉しい。
セミの声が響き、世界が夏休みという熱狂に包まれた頃。
私は居間のモニターで、何気なく流れるニュースを眺めていた。
『――中東にて正体不明の武装集団による同時多発テロが発生。
新型エネルギーの利権を巡り、各国の対立は過去最悪の状況に……』
画面には炎上する施設や、逃げ惑う人々の姿が映し出される。
最近、こういう物騒なニュースを頻繁に耳にするようになった気がする。
「……ねえバロ。なんだか最近、世界中がトゲトゲしてる気がしない?」
『レイ様。これは単なる紛争ではありません。新型エネルギーの利権を
餌に、既存の国際秩序を崩壊させようとする意志が介在しています。
計算上、この火種が日本近海に波及する確率は極めて高まっています』
バロの理詰めな解説に、私はおじいちゃんの残した「準備」の重さを
一瞬だけ感じて身震いした。……でも、ここは平和な日本だ。
海を隔てた遠い国の出来事が、この平穏を壊すなんてあり得ない。
「……まあ、日本は大丈夫よね。おじいちゃんも考えすぎなのよ」
私は自分に言い聞かせるように呟き、サキから届いた
「明日も泊まっていい?」というメールに、笑顔で「了解」と返した。
平和な夏休みは、まだ始まったばかりのはずだった。




