第58話:黄金の朝食、あるいは優雅な強制起床
カーテンの隙間から差し込む朝日より先に、室内に響く軽快な音楽で、
私は重い瞼を持ち上げた。昨夜の記憶が、霧のようにぼんやりとしている。
『おはようございます、レイ様、ゲストの皆様。定刻の午前七時です。
健やかな一日を始めるための、完璧な朝食をご用意いたしました』
バロの声に導かれるようにリビングへ向かうと、サキとチカも、
寝癖だらけの頭を抱えながら、その光景に再び言葉を失っていた。
「……うわ。何これ、ホテルの朝食ビュッフェじゃん」
「焼きたてのクロワッサンの匂いがする……。麗の家、すごすぎ」
食卓には、色鮮やかなサラダ、黄金色のオムレツ、そしておじいちゃんの
全自動調理器が仕上げたであろう、芳醇な香りのスープが並んでいた。
昨夜の催眠ミストへの怒りも、この光景の前ではどこかへ消えてしまう。
「あ、あはは……。バロったら、本当に張り切りすぎだよね……」
私が引きつった笑顔で椅子に座ると、バロのホログラムが優雅に一礼した。
『昨夜は失礼いたしました。本日はお帰りになるまで、源造様直伝の
フルサポートを提供いたします。まずはこの「脳活性化スープ」をどうぞ』
一口飲めば、霧散していた意識が急速に覚醒し、全細胞が活性化していく。
美味しい。悔しいけれど、おじいちゃんの技術はあまりに快適すぎるのだ。
私は親友たちの「麗の家、最高!」という歓声を聞きながら、
日常と非日常の境界線が、朝食の湯気の中に溶けていくのを感じた。




