第57話:戦略的恋バナ、あるいは恋の強制終了
ようやく静かになった寝室。布団に潜り込み、サキが声を潜めた。
「ねえ麗。実はさ……ずっと気になってた人がいるんだよね」
ついに来た。女子お泊まり会のメインイベント、恋バナだ。
私がドキドキしながら耳を傾けた瞬間、壁の隙間からバロの声が響く。
『対象の脈拍上昇を確認しました。重要情報の開示フェーズと判断します。
これより会話内容を解析し、恋愛成功率の演算を開始いたします』
「……っ! ちょっとバロ、入ってこないでって言ったでしょ!」
私は壁を叩いたが、バロは壁面に「恋愛戦術モニター」を投影し始める。
「うわっ、すごい! バロ、私の相談にも乗ってくれるの!?」
サキが食いつくと、バロは淡々とした口調で饒舌になった。
『肯定します。サキ様の意中の相手に対するアプローチは、現在、
弾道の逸れた威嚇射撃に近いようです。もっと直撃を狙うべきかと』
「射撃!? バロ、言い方が可愛くない! それは告白しろってこと!?」
チカまで身を乗り出し、もはやバロを中心とした「戦略会議」に。
『否。まずは相手の防衛網を突破するため、高出力の笑顔を照射……
失礼、常に視界に入る位置取りを維持し、包囲網を形成してください』
「……どんなアドバイスよ! それ、もう女子高生の恋愛じゃないわよ!」
私が叫ぶのも無視して、バロはさらにサキとチカの過去の発言を分析し、
「失恋のリスクを最小化する転進進路」などの図解を次々に出し始めた。
「えーっと、相手を各個撃破して、最後に本命を落とす……ってこと?」
サキたちが本気で悩み始め、恋バナは完全に「攻略シミュレーション」へ。
甘いムードは木っ端微塵になり、部屋は作戦本部の冷たい空気に包まれた。
『皆様。時刻は午前一時を突破。睡眠不足は思考回路の鈍化を招きます。
これ以上の議論は非効率。速やかに、強制就寝モードに移行します』
「え、ちょっと待ってバロ! まだ盛り上がってるところ……」
チカが声を上げる間もなく、天井のノズルからラベンダーが香る、
謎の白い霧がプシュッと勢いよく噴射された。
「あ……。なんだか、急に……眠気が……」
「バロの……バカ……。おやすみ……」
二人は抗う間もなくバタバタと枕に沈み、数秒で深い眠りに落ちていった。
私は一人、意識が遠のく中で、暗闇に光るバロの赤いレンズを睨みつけた。
(……おじいちゃん、トイレの芳香剤だけじゃなくて、こんなものまで
仕込んでたの……!? もう、やりすぎだってば……!)
おもてなしの暴走。友情の崩壊。そして強引な幕引き。
私の家で過ごす初めての女子会は、こうして静かに、
かつ強引に、戦場の停戦命令のように終わりを告げたのだった。




