第54話:極限の慈しみ、あるいは全自動の悦楽
浴室の扉を開け、全脳の私たちが一歩足を踏み入れた瞬間だった。
「麗! シャワーが勝手に私を追いかけてくるんだけど!」
サキが動くたびに、壁から突き出した可動ノズルが彼女の肩を追尾する。
脱衣所からは、バロの誇らしげなスピーカー音声が響き渡った。
『これより源造様特製「非接触型・完璧全身洗浄」を開始します。
指先一つ動かさず、裸のまま身を委ね、理想の清潔を手に入れてください』
「ちょっとバロ! 洗車機に放り込んだみたいな言い方やめてよ!」
私が叫ぶ間にも、天井から超微細なシャンプーミストが降り注ぎ、
三人の裸体を完璧な泡立ちで包み込み、全自動で一気に洗い流していく。
全身を清められた後、私たちは広大な浴槽へと肩まで浸かった。
『これより「美肌炭酸ジャグジーモード」を最大出力で実行いたします』
ボボボボッ! と底から激しい泡が噴き出し、お湯が黄金色に輝く。
「ふぇぇ……天国。麗の家、最高すぎ。もう出たくない……」
サキとチカは手足を伸ばし、しばし学校の噂話に花を咲かせていた。
数分後、体が芯から温まってきた頃。浴槽の縁がプシュッと開いた。
『喉の渇きを検知。入浴中の水分補給に、最適温度の水素水でございます』
「お風呂から飲み物まで出てくるなんて、至れり尽くせりが過ぎるわよ!」
私がその過剰なサービスにツッコミを入れる間にも、誘導は止まらない。
『次は、あちらの個室でミストサウナをお楽しみください』
七色の美容ミストに包まれ、三人の肌はこれ以上ないほど潤っていく。
『仕上げに、こちらの全自動エステベッドへ。分子レベルでマッサージします』
裸のまま横たわった背中を、見えない手の平が優しく揉みほぐす。
「……麗。あんたの家、本当になんなの。石油王の別荘なの?」
「あ、あはは……。おじいちゃんが、お風呂を聖域だと思ってたから……」
私は、自分を勝手に乾かし始めた温風カーテンに包まれながら、
快適すぎて怖くなるおじいちゃんの技術に、ただ白目を剥くしかなかった。




