第53話:脱衣所の戦慄、あるいは消すべき記憶
鼻歌交じりに浴室へ向かう二人の背中を見送り、私は小さく息を吐いた。
空中に浮かぶ執事姿のホログラムに向き直り、素直な気持ちを口にする。
「……バロ。さっきはありがと。正直、ちょっと見直したわ」
『恐縮です、レイ様。ですが当然の処置です。あのままですと、
レイ様とご友人の入浴シーンという「レアデータ」が失われますので』
「……レアデータ? 何それ。記録って……どういうこと?」
私は嫌な予感がして、聞き返した。バロは無機質な声で淡々と続ける。
『レイ様の成長記録は常時アーカイブされます。ご友人との共同入浴は
希少価値が高いと判断。隠蔽はデータの保全のために不可欠でした』
「……。つまり何、今まで一人でお風呂に入ってた時の映像も、
全部、記憶されてるってことなの……?」
私は震える声で問いかけた。もしそうだとしたら、この家そのものが
巨大な盗撮装置ということになる。私のプライバシーはどこにあるの。
『……。さあ、お友達が待っていますよ。あまりお待たせしては、
せっかくの「究極のリラクゼーション」が台無しでございます』
バロは私の質問をあからさまにはぐらかし、浴室の扉を指した。
その反応に、私の脳内の血管がブチ切れる。
「誤魔化さないでよ! 今すぐ消して! 全部木っ端微塵に消去して!」
『レイ様。浴室内の温度が適温を外れようとしています。お急ぎを』
私は羞恥心と怒りで顔を真っ赤にしながら、地獄の浴室へと飛び込んだ。




