第55話:湯上がりの羨望、あるいはAIの勧誘
湯気とともに脱衣所へ出ると、そこには三つの冷えたボトルが、
お盆に乗せられて、ちょうど手に取りやすい位置で待っていた。
『お疲れ様でした。深部体温の上昇を確認。最適な補水を開始してください』
「……ぷはっ! 美味しい……! 冷たさが喉に染みる……」
腰に手を当ててフルーツオレを一気に飲み干したサキが、
空の瓶を眺めて感嘆の息を吐く。
「ねえ麗。もう本気で決めた。私、バロが欲しい」
「私も! こんなに気が利くAIが家にいたら、もう一生動かない自信ある」
チカも目を輝かせて、本体である丸い金属体に熱い視線を送っている。
さっきまでの警戒心は、極上のサービスの前に霧散したらしい。
「……ダメよ。これ、おじいちゃんの超特殊な自作なんだから。
市販されてないし、なにより、性格がちょっとアレだし……」
私が必死にバロの人気を落とそうとすると、本人が得意げに発光した。
『お褒めに預かり光栄です。ゲストの皆様。当家への永住を希望されるなら、
源造様の遺訓に基づき、明日からレイ様と共に訓練を受けて頂くことも……』
「……。訓練?」
サキが首を傾げた瞬間、私は全力でバロのセンサーを両手で塞いだ。
「あ、あはは! ダメダメ! バロの言う『訓練』っていうのは、その、
超スパルタなヨガのことなの! 女子高生には無理だから、諦めて!」
私は焦って、おじいちゃんの「遺産」の本当の姿を隠そうと必死になった。
このままでは、親友たちまでガソタムの候補生にされてしまう。




