第46話:カレーの理想と、フレンチの現実
「あ、あはは! そうだ、そろそろ夕飯の用意しなきゃ!
今日はみんなでカレーにしようよ。私、すぐ作っちゃうから!」
私は疑惑の視線から逃げるように、足早にキッチンへと駆け込んだ。
市販のルーで「普通の女子高生」を演出する。それが今の戦略だ。
ところが、一歩足を踏み入れた瞬間に、私はその場に盛大にずっこけた。
調理台に乗ったバロの本体が、アームを器用に動かして銀の蓋を並べ、
いそいそと最高級レストランのような料理を準備していたからだ。
「……な、何やってんのよ、バロ……っ!」
『お待ちしておりました、レイ様。源造様が開発した全自動調理器を
起動し、ゲストのためにフレンチのフルコースをご用意いたしました』
バロは誇らしげに、アームで一本のボトルを指し示した。
『お飲み物は、シャトー・ペトリュスの二〇〇〇年物で宜しかったでしょうか。
未成年の皆様には、成分を置換したノンアルコール版を提供いたします』
「……ちょっとバロ! 何やってんのよ! カレーを作るつもりだったのに!
勝手にこんなもの用意して、どう説明しろって言うのよ!?」
『カレーのレシピは存在しますが、ゲストへのおもてなしとしては不適格。
源造様の遺訓に基づき、最高級の礼節を尽くした結果でございます』
私は床に突っ伏したまま、あまりの融通の利かなさに絶望した。
そこへ「麗ー、手伝うよー!」と二人の足音が近づいてくる。
「大、大丈夫! 一人でやれるから! サキたちはそこで待ってて!」
私は必死の形相で、廊下に向かって叫び返した。




