第39話:非情なAIと、乙女の譲歩
私は放課後のチャイムと同時に、脇目も振らずに家へと走り出した。
玄関を開けるなり、いつものように浮遊する人型のホログラムが言う。
『お帰りなさい、レイ様。定刻通りです。直ちに本日の訓練を……』
「待って、一旦ストップ! 訓練どころじゃないの、一大事なのよ!」
私は息を切らしながら、バロに向かって必死に事情を説明した。
今週末、学校の友達がこの家に泊まりに来ること。
その間は、おじいちゃんの「趣味」がバレるわけにはいかないこと。
「だからお願い! その日だけは電源を切って、静かにしていて!」
私は神に祈るような気持ちで、青白く光る執事AIに詰め寄った。
けれど、バロは一切の感情を排した声で、無慈避な宣告を下す。
『却下いたします。ガソタム戦略サポートシステムに、停止の概念は
存在しません。また、外部からの侵入者こそ、最大の警戒対象です』
「侵入者じゃないわよ! 私の大事な友達なの! ……。じゃあ、
せめて友達が来ている間は、どこかに隠れていて! お願い!」
私の必死の譲歩に、バロはチチチ……と演算音を鳴らして沈黙した。
『承知いたしました。視覚的・聴覚的接触は回避いたしましょう。
ただし、緊急事態と判断した場合は、私の独断で介入いたします』
……緊急事態。その基準が、このAIと私で一致している気がしない。
「とにかく、姿も見せない、声も出さない! 約束だからね!」
電源オフは無理だったが、なんとか「隠れる」約束だけは取り付けた。
私は自分の部屋の畳の上で、終わりの始まりを予感して崩れ落ちた。




