第34話:放課後の攻防、あるいは乙女の猶予
学校から帰宅し、玄関を開けた瞬間にバロが目の前に現れた。
ホログラムが展開され、一分一秒の誤差も許さない数字が躍る。
『十六時三十分。定刻通りの帰宅です、レイ様。
直ちに地下室へ移動し、本日の訓練シークエンスを開始します』
「……ちょっと待って! いきなり連行しようとしないでよ!
まず部屋着に着替えさせて! 制服のまま連れて行く気!?」
私は、勝手にスライドし始めた壁を必死に手で押さえて叫んだ。
バロは無機質なレンズで、私の制服をじっと見つめて答える。
『レイ様。時間は有限です。衣服は地下への移動中に換装されます。
制服のままシートに固定されても、プロセスに支障はありません』
「支障は大ありよ! あの光でまた粒子に分解されたらどうすんの!
予備の制服はこれ一着しかないんだから、絶対にダメ!」
『再度、再構築されますので問題ないかと思われますが』
「大問題だよ!」
私は逃げるように自室へ駆け込み、急いでパーカーに着替えた。
……正直に言おう。この訓練、実は少し楽しみな自分もいる。
あの全周囲モニターに映し出される、圧倒的にリアルな映像。
レバーを倒した時の、腹の底まで響くような巨大な震動。
普通のゲーセンには絶対にない。有名遊園地の最新アトラクション、
それこそ富士急とかに行かないと、こんな体験できないはずだ。
「……いけない。私は平和を愛する女子高生。
おじいちゃんのオタク趣味に、染まっちゃダメなのに……っ!」
私は頬を叩いて自分を律したが、心はすでに地下へ向かっている。
本物の六万馬力が生み出す衝撃は、どんな絶叫マシンよりも刺激的だ。
「よし、バロ。……一応、付き合ってあげる。準備して」
私は、おじいちゃんが遺した「地下へ続くあの椅子」へと、
意を決して、すとんと腰を下ろした。




