第1話:マッハの後の、ゆるふわな午後
あの息もつかせぬ中東での決戦から、数日が過ぎた。
マッハ10の衝撃も、巨人の咆哮も、
今の私には、まるで遠い夢のように思える。
放課後の教室。
窓から差し込む柔らかな西日を浴びながら、
私は親友のサキとチカが話す、
「新作パンケーキ」の噂に耳を傾けていた。
「ねえ麗、聞いてる?
駅前にできたお店、限定メニューが出るんだって!」
「……あ。うん、聞いてる。
いいよね、パンケーキ。平和だなぁ……」
私は机に突っ伏して、心から溜息をついた。
重厚な操縦桿の代わりに、今はシャーペン。
耳を劈く警告音の代わりに、
運動部が練習に励む、活気ある掛け声。
これよ。これが、私の求めていた青春。
ゼットガソタムは基地の奥底。
野田さんも、しばらくは連絡してこないはず。
「……。でも麗、最近ちょっとボーッとしてない?
何か隠し事でもしてるの?
もしかして、誰かいい人でも……」
サキがニヤニヤしながら顔を覗き込んできた。
「いい人なんて、いるわけないでしょ!
今はとにかく、平穏に過ごしたいだけなの!」
私は必死に否定した。
……けれど、心のどこかで、
家で留守番をしているはずのバロが
何か余計なことを企んでいるような気がして、
微かな悪寒が背筋を通り過ぎた。
この時の私は、まだ知らなかった。
おじいちゃんが遺した「重なり合う思惑」が、
世界を揺るがす巨大な事件……
そして「鼻につくエリート」の形をして、
すぐそこまで迫っていることを。




