第102話:平穏の対価、あるいは最高の幸福
マッハ10の短い旅を終え、ゼットガソタムは
日本の自衛隊基地へと静かに舞い降りた。
着陸と同時に、左腕の拘束室が開き、
力なく項垂れた尾田さんが
野田さんの部下たちによって連行されていく。
私が操縦席から地上に降り立つと、
待機していた野田さんと真砂さんが歩み寄ってきた。
「古谷さん、本当に……ありがとう。
君のおかげで、最悪の事態は回避された」
野田さんは、深々と私に頭を下げた。
隣の真砂さんも、潤んだ瞳で強く頷く。
「麗さん、お疲れ様でした。
貴女の勇気が、世界を救ったんです。
心から……感謝します」
二人の誠実な言葉に、胸の奥が熱くなる。
けれど、私は照れ隠しに小さく笑って答えた。
「……。いいえ。私はただ、
早くおうちに帰りたかっただけですから」
事件は解決し、おじいちゃんの負の遺産も消えた。
このゼットも、これからは基地で管理される。
夕暮れの風を受け、私は空を見上げた。
もう、戦わなくていい。
もう、世界を背負わなくていい。
「……。ふふっ。こんなに嬉しいことはないわ」
心からの本音が口から零れた。
私の憂いは、これ以上どこにもない。
『レイ様。本当に宜しいのですかな?
私の「至高の記録工房」も完成予定ですが……』
「バロ。あんたはそこで、自衛隊の人たちと
仲良くやってなさい。……お疲れ様」
私は、基地のゲートの向こう側に広がる
当たり前の日常へと、一歩を踏み出した。
明日からは、普通の授業。
サキやチカと笑い合う、どこにでもある明日。
それが私にとって、何よりの勝利の証だった。




