第95話:砕ける鉄拳、あるいはゼットの盾
目の前に降り立った私のゼットを見上げ、
尾田さんは驚愕を怒りへと塗り替えた。
『小癪な真似を……! 空飛ぶだけの
見掛け倒しが、俺のガソタムに
勝てると思っているのか!』
プロトタイプが大地を蹴り、
猛烈な勢いでこちらへ突進してくる。
『所詮は急造品よ! 粉々に砕けろ!』
尾田さんは狂ったように叫びながら、
灰色の巨腕に全エネルギーを乗せ、
ゼットの胸部へ向けて渾身の右拳を叩き込んだ。
ドォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃波が砂漠の砂を巻き上げる。
あまりの威力に、私は座席で身を構えた。
……けれど、衝撃は予想より遥かに小さい。
「……。え、今、殴られたの?」
砂煙が晴れた先で、私は信じられない
光景を目の当たりにした。
ゼットの胸部装甲は、傷一つ付いていない。
逆に、殴りかかったはずの
プロトタイプの右腕が、肘から先、
無残にひしゃげて砕け散っていたのだ。
『……バ、バカな。俺の拳が、砕けただと?
あり得ん、同じ特殊合金のはずだ……!』
通信越しに聞こえる尾田さんの声が
絶望に震え、裏返っていく。
『フフフ。言ったはずですよ。
このゼットにとって、プロトタイプなど
脆い練習台に過ぎないと』
バロの冷徹な声が、沈黙する戦場に響く。
「本物」だと信じていた力。
それが一瞬で「過去の遺物」へと
成り下がった瞬間だった。




