第20話:拒絶のロジック、あるいは乙女の意地
私は大きく深呼吸をして、宙に浮くバロと正面から向き合った。
……感情的に怒鳴っても、このAIにはきっと通じない。
ここは論理的に「結婚しない理由」を叩き込むしかない。
「いい、バロ。よく聞きなさい。
おじいちゃんの遺言は、私にとって著しく不当な拘束なの」
『不当、でございますか?
源造様はレイ様の将来を考え、最適な姓を選定したと……』
「それが一番の問題なの! 名前は、自分のためにあるの!
誰かの趣味のパーツになるために、私は生まれたんじゃない」
私は人差し指をバロのレンズに突きつけ、一気にまくし立てた。
「第一に。私は安室という響きにアレルギーがあるの。
第二に。政略結婚みたいな真似、今の時代には流行らない。
第三に。私は『うらら』という人生を歩みたいの!」
バロのホログラムが、チチチ……と演算音を立てて明滅する。
冷汗を拭いながら、私は最後のダメ押しを放った。
「無理に結婚させようとするなら、私はハンストでも何でもする。
そうなれば、あなたがサポートすべき私の命が危ないわよ」
『……演算終了。レイ様の精神的苦痛が限界値に近いと判断。
源造様の命令より、現オーナーの生存を優先。
「安室氏への入籍プラン」を、無期限で凍結いたします』
「……! わ、わかってくれたのね!?」
膝の力が抜けて、私はその場にへたり込んだ。
勝った。ハッタリで、ついにこの最強AIを説得したのだ。
『ただし。ガソタムの秘匿に関しては、
引き続き私のサポートを受け入れていただきます、レイ様』
「……。それは、まあ……。背に腹は代えられないしね」
最悪の結婚は回避できた。
でも、地下にガソタムがいる現実は一ミリも変わっていない。
私はバロを見上げ、これからの奇妙な共同生活を覚悟した。




