第19話:戦略的なデータマイニング
目の前の球体、バロが、不気味に「チチチ……」と音を立てる。
割れた球体から放たれる青白い光が、激しく明滅した。
「……バロ? 何してるの? 静かになったと思ったら」
私がちゃぶ台から顔を上げると、バロのホログラムが急膨張した。
空中に、ものすごい勢いで情報のウィンドウが展開されていく。
『完了しました。これより検索結果を表示します』
ドォォォォン、と重低音を響かせ、中央に巨大な表が出現した。
そこには三十八名もの顔写真と、詳細なプロフィール。
「……何、これ。何のリスト?」
『この町における「安室」姓の全リストでございます。
その中で未婚、およびレイ様との相性が良好な男性が三名。
源造様の遺志を達成するための、最重要攻略対象です』
「ちょっと待ちなさいよ! 誰が攻略するって言ったの!」
私はちゃぶ台を叩いて立ち上がった。
おじいちゃんの「安室と結婚しろ」という呪い。
それをサポートするなんて、ありがた迷惑の極みだ。
「私は『うらら』なの! 安室なんて名前、一生お断り!」
しかし、バロは私の怒りを無機質な電子音で受け流す。
ホログラムには、リストの上位者が次々と映し出された。
『候補その一。老舗和菓子屋の跡取り、安室健。
候補その二。地元農協の期待の若手、安室大吾』
「……いや、勝手にリストアップしないでよ!
こっちはそれどころじゃないの。地下にガソタムがあるのよ!?」
思わず叫んだ私に、バロは不思議そうにレンズを向けた。
『ガソタム? 当然あります。源造様の最高傑作ですから。
ですが、それと入籍に何の関係があるのですか?
さあレイ様、まずは和菓子屋の安室氏を偵察しましょう』
……こいつ、ガソタムを隠す気ゼロだ。
存在するのが当たり前すぎて、私の「隠したい」という必死さが、
この高知能AIには一ミリも伝わっていない。
冷汗が背中を一気に駆け抜ける。
私は、おじいちゃんが遺した最強の『お節介』を前に、
今度こそ、逃げ場のない絶望を感じていた。




