第2話:おじいちゃんの執念と、私の名前
おじいちゃんは、とにかく極端な人だった。
私が物心ついたときには、すでに庭で何かを溶接していた。
火花を散らしながら、おじいちゃんはいつも上機嫌で言った。
「麗、見てろ。いつかこれでお前を学校まで送ってやるからな」
……絶対にやめてほしかった。
当時の私は、それがただの軽トラの改造だと思っていたのだ。
おじいちゃんのガンダム愛は、もはや信仰に近かった。
テレビで最新のロボット工学のニュースが流れるたび、
おじいちゃんは「ちがう、そうじゃない」とテレビに怒鳴る。
「二足歩行に車輪をつけるなど軟弱だ! 股関節を見ろ!」
……私には、股関節の何が重要なのかさっぱり分からない。
おじいちゃんは、ただ『本物』を作りたかっただけなのだ。
ある時、私はおじいちゃんに尋ねたことがある。
「ねえ、なんで私の名前、麗にしたの?」
おじいちゃんは、遠くを見るような目で答えた。
「いいか麗。お前は将来、安室という名字の男と出会う。
その時、お前の名前が完成するんだ。運命なんだよ」
……小学生だった私は、その言葉を信じてしまった。
けれど、高学年になってアニメの知識が少しだけ入った時、
私は自分の名前の本当の意味を知って、絶望した。
古谷の名字で、名前が『れい』。
結婚して安室になれば、安室麗。
……おじいちゃん。
孫の名前を、自分の趣味のパズルのピースにしないでほしい。
それ以来、私は頑なに『うらら』と名乗るようになった。
おじいちゃんの野望から、少しでも遠ざかりたかったからだ。
なのに、おじいちゃんが亡くなった今。
私はその野望の結晶である、ガソタムと一緒に暮らしている。
地下に眠る巨大な鉄塊は、不気味なほどに静かだ。
電気を食うわけでも、機械音を立てるわけでもない。
ただそこに、60トンの質量として存在しているだけ。
「……絶対に動かさないから。絶対に、安室とも会わないから」
私は自分に言い聞かせるように、毛布を頭まで被った。
畳の向こう側に、おじいちゃんの執念が透けて見える気がした。




