第90話:邂逅の空、あるいは自由への翼
中東の乾いた大地が視界に入ると同時に、
ゼットガソタムは慣性制御をフル稼働させ、
マッハ10からの急減速を開始した。
普通の機体なら空中分解する負荷も、
おじいちゃんの技術は無慈悲なほど静かに、
私を目的地の空へと送り届ける。
「……バロ。プロトタイプはどこにいる?」
私は空になったトレイを脇に追いやり、
音速を下回ったモニターを睨んで問いかけた。
『承知いたしました。広域索敵を開始します……』
わずか五秒。
コンソールが短く電子音を鳴らし、
砂塵の舞う地表の一点を赤く染める。
『発見しました。北西三十度、距離五十。
……あの子は、そこにいますぞ』
バロが指示した方向の先。
荒廃した戦場の中央で、
禍々しい影を落とす灰色の機体が見えた。
『麗さん。野田さんも、これからの
戦闘についてはバロ殿に一任する、と』
真砂さんの落ち着いた声が、
通信ウィンドウ越しに響く。
『バロ殿からも「お任せを」と伺っています。
……麗さん。あとは、貴女の思うままに、
自由にやっちゃってください!』
「……自由に、ね。
おじいちゃんの尻拭いをするには、
最高の機体があるわけだし」
私は操作パネルに挟んだ写真にそっと触れ、
激しく鳴り始めた鼓動を一つ、飲み込んだ。
「本物」のプライドを粉砕する、
「真実」の時間が始まる。




