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第88話:マッハ10の食卓、あるいは極限のランチ
窓の外、空の色が濃い群青色へと変わる。
成層圏を滑るように飛ぶゼットの機体は、
マッハ10という速度を微塵も感じさせない
不気味なほどの静寂に包まれていた。
『レイ様。これより目的地まで
オートパイロットを開始いたしますな』
バロの落ち着いた声が、
緊張で強張っていた私の耳に届く。
『到着までおよそ一時間。
戦地へ着く前に、まずはお食事になさいますか?
……チキン、それともビーフ?』
「……。え、今? この状況で?」
私は操作パネルに挟んだ、
みんなとの写真をチラリと見てから
呆れたようにバロへ問い返した。
「っていうか、どうやって食べるのよ。
キッチンなんてどこにもないでしょ」
『おやおや。おじい様がレイ様のために、
最高級の機内食をフリーズドライ形式で
コンソール内に完備してございますぞ』
カチリ、と手元のハッチが開く。
そこには丁寧にパッケージされた
本格的な料理キットが収まっていた。
「……。本当、どこまで本気なのよおじいちゃん」
眼下には、目も眩むような速度で
過ぎ去っていくユーラシア大陸。
これから「本物」と命懸けの喧嘩を
しに行くというのに、私は世界一速い
特等席で、ランチの選択を迫られていた。




