第87話:咆哮する古谷邸、あるいはZの閃光
慣れ親しんだ地下ハンガーの空気が、
ゼットガソタムの鼓動に呼応して震え始める。
機体各部のロックが解除され、
重厚な金属音が広大な地下空間に響き渡る。
『システム、最終チェック完了。
オールグリーンにございますな』
バロの落ち着いた声と共に、
巨大なカタパルト・レールが重厚にせり上がる。
ゼットは鈍い銀色の光を放ちながら、
発進ポイントへと正確に送り出されていく。
その頃、地上では異変が起きていた。
静かな住宅街に地響きが走り、
あの時と同じように古谷邸の屋根が
左右に大きく、轟音を立てて割れたのだ。
レールの先に広がる、突き抜けるような青空。
私は操縦席で、期待と不安が入り混じった
激しい動悸を抑えようと深く息を吐いた。
『レイ様。これより未知の加速域に入ります。
緊張を和らげるために、宜しければこれを』
全天周囲モニターの片隅に表示されたのは、
去年のクリスマス、この地下室で撮った写真。
私とサキ、チカ、そして真砂さん。
それぞれのスーツを纏い、
カメラに向かって笑い合う大切な記憶。
「……バロ、ありがと。少しだけ落ち着いたわ」
私は出力されたその小さな写真を手に取り、
操作パネルの隙間へと、指先で丁寧に挟み込んだ。
「よし。これで行ける。……みんな、見ててね」
機体はレールの終端で強固にロックされ、
おじいちゃんの残した慣性中和装置が
重力制御のフィールドを青白く弾けさせる。
『目標、中東戦域。J12-GSTM、発進!!』
「うらら、行きます!!」
身体がシートに沈み込む凄まじい衝撃。
だが、装置が致死レベルのGを和らげ、
私の感覚を機体へと同調させていく。
ゼットは段階的に加速を続け、
雲を突き抜ける頃には音速の壁を突破。
成層圏へ届く頃、その速度計は
ついにマッハ10という神の領域へ到達した。




