第86話:通信の向こう側、あるいは呆然とした視線
「バロォオオ! 説明しなさいよ!
なんで着替えるだけで溺れなきゃいけないのよ!」
完璧にスーツを纏いながらも、
私はシートの上で地団駄を踏んで叫んでいた。
その時、全天周囲モニターの一角に、
バロが繋いだ通信ウィンドウがパッと開いた。
『麗さん……?
……あ、あの、一体何があったんですか?』
画面に映し出されたのは、
基地のオペレーションシートに座り、
見たこともないほど呆然とした表情の真砂さんだった。
「……。ま、真砂さん!?
いつから繋がってたの、これ!」
『今……ちょうど、貴女の叫び声が
響き渡ったあたりからですが……』
真砂さんは戸惑いながらも、
手元のコンソールを操作して表情を引き締めた。
『野田さんの命により、これより私が
通信で貴女のナビゲートを担当します。
……麗さん、髪が少し逆立っていますが、大丈夫ですか?』
「大丈夫なわけないでしょ!
おじいちゃんとバロのせいで、もう……!」
私は乱れた前髪を必死に抑えながら、
笑いを堪えているようなバロの電子音を
背中で睨みつけた。
『フフフ。真砂様、レイ様のバイタルは正常。
アドレナリンが出て、士気は極めて良好です。
これより中東へ向けて、マッハ10で発進しますぞ』
「士気じゃなくて殺意よ!」
私のツッコミも虚しく、ゼットガソタムの
巨大なエンジンが、地底のハンガーを
震わせるような重低音を響かせ始めた。




