第83話:壊すべき遺産、あるいは鋼の行方
野田さんが嵐のように去っていった後、
私は静まり返った居間で、
静かに佇むバロに向き直った。
「……ねえ、バロ。本当に壊さなきゃ
ダメなのかな。あのプロトタイプを」
私の問いに、バロはどこか
他人事のような軽い調子で答えた。
『おや、何を悩んでおられるのです。
物理的な計算だけで言えば、このゼットで
一撃粉砕するのが一番手っ取り早いですな』
「でも、あの子だっておじいちゃんが
高いお金かけて作った機体でしょ?
それを自分の手で壊すなんてもったいないし」
私が損得勘定で言い淀むと、バロは
呆れたようにレンズを明滅させた。
『レイ様。あの子は所詮「プロトタイプ」。
おじい様にとっても、このゼットを
完成させるための踏み台に過ぎませんぞ』
おじいちゃんにとって、
あれはただの通過点だったというの?
『機体そのものが暴力の道具として
世界に牙を剥くなら、さっさと粗大ゴミに
出すのが「実用機」の務め。……それが
おじい様の合理的な設計思想です』
「……。まあ、尾田さんの暴走のせいで
私の生活までめちゃくちゃだし、
落とし前はつけてもらわないとね」
私は溜息をつき、画面の中で
鼻歌でも歌い出しそうなほど軽やかに
システムチェックを続けるバロを見つめた。




